第114回「超分子ネットワークの基礎と実用化」 平成23年12月2日(金)
2012年 03月 22日科学技術者フォーラム講演報告
科学技術者フォーラム セミナー 平成23年12月(第114回)
日時 平成23年12月2日(金) 14:00〜16:50
場所 品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第4講習室
講習テーマ 「超分子ネットワークの基礎と実用化」
講師 東京大学 新領域創成科学研究科 教授 伊藤 耕三 氏
内容 <始めに>
・ソフトマターは、いくつもの細く短い紐が絡まって出来ている。高分子、液晶、コロイド、生体分子などのいわゆる柔らかい材料である。
・ソフトマターが伸び縮みするのは、短い紐が縮れた状態で絡まっている為。しかし、伸び縮みするのは、常温のときであり、低温だと固まってしまう。
変形速度が大きいと弾性的挙動、小さいと流動的な挙動を示す。剛性率が小さく外力による変形が大きく超弾性的な特性を有する。生体材料に近い性質を持つともいえる。分子サイズは数nmから数百である。
・ソフトマターの粘弾性は、架橋によって大きく変化する。これは、物理架橋(こんにゃくなど)と、化学架橋(タイヤのゴムなど)の二種類に分けることが出来る。
・ソフトマターの歴史は古く、1839年には使用されていた。しかし、構造などは確立されていない状態で使用されていたため、ソフトマターという言葉が出来たのは、最近になる。
<従来のソフトマターと、環動高分子の特徴と違い>
・ソフトマターは、一定以上の力を加えると切れてしまう。原因として考えられるのが、ソフトマターの紐についている架橋の不均一性であり、これを補ったものが、環動高分子である。。
・伊藤教授が開発した環動高分子は、輪が2つついた八の字型の架橋で繋がっており、架橋点がひもの間を自由に動くのが大きな特長である。このため、従来のソフトマターの4〜5倍まで伸ばしても切れずに弾性変形する。通常の固定架橋点高分子材料とは異なる力学特性を持つ。
<環動ゲルの特徴>
・透明93%
・膨潤性…10〜20倍に体積が増える。
・伸縮性…4〜5倍に伸ばしても、切れない。
・永久歪…1%以下。
最大限に伸ばしても、すぐに元の形状に戻る。
また温度による変化も、通常に比べ少ない。
室温〜70℃間で、数年間圧力を加えても、数時間で元に戻る。
・柔らかさ…ゴム硬度 0(40kPa)〜30(800kPa)
・振動吸収周波数帯がきわめて広いので、防音、防振性に優れている。音と振動を同時に吸収できる。
・温度が上がると白く変色し、温度が下がると透明に戻る性質のゲルもある。
・フィラー粒子などの添加物を加えても力学特性があまり変化しない。
<環動高分子材料の応用研究など>
・医療への応用…環動ゲルの伸張特性が、豚の大動脈と似ており、軟骨や血管の代わりとして使用できる可能性がある。
・携帯電話、自動車の表面塗装…力を加えたり、しわを作ったりしても、その変形が瞬時に消えるので、傷をつけても直ぐに消える。大手自動車会社との共同開発により実用化済み。
・誘電アクチュエータ…
誘電エラストマーの上下面に伸縮性電極を塗布し電圧をかけると、変形するものを誘電アクチュエーターと呼ぶ。
長所:大気中で動作可能、歪が大きい、応答が速い、エネルギー効率が良い。
短所:高電圧が必要(数kV)
※介護ロボットや、パートナーロボットに使用が見込まれているが、モータの軽量化や、高出力化がまだまだ必要。
・スピーカー…振動吸収周波数帯の広さを応用しており、TGAシリーズとして、既に販売されている。
<ベンチャーによる用途創出について>
この材料及び応用については先生が起こしたベンチャー企業「ソフトマテリアル株式会社http://www.asmi.jp」に、販売・応用研究などを委託している。この結果、応用化が早くに進み、市場に早く製品が出回った。
―販売について―
・原料をベンチャーで販売している。
・水溶性の環動高分子については、作成してから販売することも可能。
※問い合わせなどについては上記ベンチャーに行うようにとのことです。
<まとめ>
・架橋点が自由に動く環動高分子材料を発明した。基本(概念)特許が日米欧で成立済みである。構造特許なので非常に強い。日本の産業復興のための大きな武器となる。
・環動高分子材料は、滑車効果とスライディング弾性という従来の高分子材料にはなかった新しい特性を示す。
・環動エラストマーは柔らかく、履歴や永久ひずみが極めて小さい。フィラーを大量に入れてもこの特性があまり変わらない。
・環動高分子材料は、誘電エラストマー、耐傷性塗料、振動音響吸収材料など、様々な分野で応用展開が進んでいる。