太平洋セメント株式会社 埼玉工場 平成23年12月度
2012年 02月 04日 2011年12月度 科学技術者フォーラム見学会報告(その2)
見学日:平成23年12月22日(木)
見学先:太平洋セメント株式会社 埼玉工場 (埼玉県日高市大字原宿721)
参加者:50名
見学時間:14:00〜16:30
1.見学の狙い
太平洋セメントの埼玉工場で行なわれているAK(Applied Kiln)資源循環型システムについて理解を深める。
2.見学の概要
応接室で会社概要と工場施設の紹介やAKシステムの説明などが行われた後、バスで構内を見学した。AKシステムの反応炉の前ではバスを降りて、3班にわかれて見学した。
2.1 AKシステム工程の概要
このシステムは家庭から排出されたごみや、事業系一般ゴミをセメント焼成用キルンを転用した反応炉(資源化キルン)の中で生分解させ、生成物をセメント焼成用の燃料として再利用するものである。ゴミ処理を抜本的にかえる実証プラントとして期待されている。反応炉の内部は60℃前後に保たれており、生分解反応で発生する熱を利用し、外部からの熱の供給は必要ない。ほこりや臭気も外にもれることがないように管理されている。AK工程は以下のように進行する。
搬入されたゴミがストックされることなくそのままの形で全長62.9m、直径5mの資源化キルンに投入される。資源化キルンは低速回転しながらゴミ袋を破り、徐々にゴミを細片化する。やがて好気性発酵が急速に進行し、ゴミの成分のうち、糖分や澱粉などの炭水化物や蛋白質が酸素と反応しながら徐々に分解してゆく。発酵効率を最適化させるため、送り込む空気の量などが調整される。その時発生するガスも隣接するセメントキルンで利用される。受け入れから3日後、有機物はほぼ完全に分解し、悪臭の発生もほとんどなくなり、土のような物質に変化して資源化キルンから排出される。その後、混入する鉄やステンレス、アルミなどの異物を取り除き、篩にかけ、セメント用原料として生まれ変る。これらの工程は全てコンピュータによる集中管理で行なわれる。
資源化キルンの出口にある部屋はさすがに独特な臭気が漂っていた。しかし、生ゴミが放つ悪臭と比較すれば比較にならないほど改善されている。資源化キルンの出口には、生分解されないプラスチック類が結構多く残っていた。説明員の話では、これらは、金属類を取り除いた後、細断して篩にかけ、40mmアンダーにして、セメントキルンに送るとのことだった。
AKシステムの特長として
1.ゴミ収集車で回収されたゴミを直接セメント工場へ持ち込み、ごみ袋のままごみ資源化キルンに投入処理できるため処理の手間がかからない。
2.火を使わず、空気を送り込むだけで、好気性発酵の生分解性反応により有機物はほぼ完全に分解し、安全で衛生的な資源化物に生まれ変わる。従って、従来のごみ処理設備のような焼却炉を必要とせず、環境汚染がない。
3.資源化物の可燃分はセメント焼成キルンで燃料として再利用される。1450℃という高温で連続運転されるため、ダイオキシン類などの発生はほとんどない。
4.セメントキルンに投入された資源化物には焼却灰などの二次廃棄物の発生もなく、最終処分場の延命化にも大きく貢献する。
などが上げられる。
しかし、なぜ、回収した生ゴミをセメント焼成用キルンに直接フィードしないで、成分解反応を通さなければならないのか、もう一つピンと来なかったので、質問してみた。以下のような理由を説明してくれた。生ゴミの品質は一定ではなく、ばらついているため、キルンに用いるとなると、品質の均質化が必要となる。また、焼成に有害な物質も取り除かなければならない。そのような前処理を行なうことは、ゴミの分別とある程度の貯蔵の必要性を意味する。しかし、それを搬入された生ゴミのままで行なうことは、悪臭や衛生問題でむずかしい。
また、塩素の混入は品質に影響を与えないのか心配だったので質問してみた。説明員の話では、その辺はたえずチェックして、成分分析も行なっているということだった。実際には塩素が多少入るが、それは許容範囲以下に抑えられているということだった。
2.2 セメントの製造工程
セメント焼成キルンもバスの中から見学した。主原料となる、石灰石は近郊の武甲山から6本のベルトをつないで地下を通して23.4kmの距離を運ばれてくる。
原料はプレヒーターで900℃まで予熱された後、長さ約70m、直径約5m程度のキルンで1450℃の高温で焼成され、クリンカ(半製品)となる。高温クリンカはクーラーで燃焼用空気と熱交換して100℃以下に急冷され、サイロに貯蔵される。
熱エネルギー源には微粉炭が用いられる。これに廃プラ、紙くず、木材チップ、汚泥、スラッジ、AKシステムからでた資源化燃料などが加えられる。ただし、廃プラには塩ビは入っていないとのことだった。廃棄物や副産物利用に関するセメント協会の目標では、セメント1トンをつくるのに400kg以上の利用が推奨されているのに対し、この工場では、昨年434kgの利用実績があったという。
製品の品質管理は成分から粒度まで全て管理できる全自動分析システムを用いて行なわれている。
2.3 Q&A 放射能物質の問題について
A; 特に、下水汚泥が心配されるが、受け入れ先から分析データをもらって、処理前に安全を確認してから使用するようにしている。
[感想]
典型的なセメント工場の例外にもれず、キルンを含めたセメント焼成工程自体は、かなり成熟したプロセスだった。一方、AKシステムはセメント業界がゴミ問題に貢献する可能性を示す新しい試みとして注目される。生ゴミのエネルギーへの利用で大きなネックとなるのは、原料の前処理工程である。AKシステムはこの問題に貴重なソリューションを提起している。この工程が完全に自動化されているのであれば、コスト的にも有望となるだろう。
[謝辞]
工場見学の機会を与えてくださいました、太平洋セメントのご関係の方々や寒い中、工場内を案内して説明して下さいました説明員の方に厚くお礼申し上げます。
記録:佐々木英夫
監修:古西義正(見学会責任者)