第225回セミナー報告「我が国の産業生産性をいかにして向上させるか」2021年10月
2021年 11月 03日科学技術者フォーラム 2021 年 10 月度(第 225 回)セミナー報告
「我が国の産業生産性をいかにして向上させるか」
日 時: 2021 年 10 月 16(土) 14:00~17:00
場 所: オンライン(ZOOM)
参加者: 30 名
講演者: FPD 技術コンサルタント 太田 隆司氏
【講演要旨】
1. 概要:
・農業は、日米→中国→東南アジア、インド、アフリカに生産優位が移って、日本は輸入国と
なった。グレープフルーツなどアフリカ産である。電子産業は、米国→日本→台湾、韓国→
中国に生産優位が移っている。
・電気自動車(EV)トップのテスラは、中国で生産している。欧州勢も中国で生産していて、
価格の高い日本製は売れていない。最近、トヨタが中国で EV を作って、
日本製鉄から提訴されている。
・いま、日本は世界に売れるものが無い。技術開発を進め、製品・材料を輸出することが重要
である。
2.世界の半導体投資と日本:
・半導体市場は 10 年で 1.4 倍の 48 兆円になった。
・アメリカ、韓国、台湾は収益の10%以上を半導体で得ている。韓国のGDPの23%をサムスン
が創出。
・半導体は国の重要産業である。日本は世界の需要を見誤り、世界との戦いに敗れた。
・世界では Si 基板の大口径化、技術・コスト優位が進み、更にファウンドリー化によるコスト
優位が進んだ。
・TSMC が SONY と合弁で熊本にファウンドリーを作ると言っている。演者は、TSMC 熊本か
東京に3兆円でファウンドリーを作らなければ、日本は潰れると提言したい。
・1960~80 年は、大型コンピューターの時代で、堅牢・無故障が必要とされ、日本の半導体
メーカーは安すぎると非難された。1980~2000 年は、PC の時代で、日本の半導体は高すぎ
ると非難された。2000~2020年は、スマホ・データセンターの時代で、インテル、サムスン
が強く、圧倒的に強いのは、TSMC である。
・日本の経産省の半導体政策は間違っており、企業を潰した。日本企業は、2020 年には半導体
売上上位から陥落し、影も形も無い状態になっている。
・2021 年 10 月、TSMC は熊本に 20nm のプロセスで SONY とファウンドリーを作ることに
合意したと発表。最初の経産省案は TSMC-東芝・キオクシアとの連携であったが、映像用・
車載用とすることで、SONY の他、ルネサスも呼び込め、デンソー、東芝等からの出資も
期待できるというもの。日本政府は 6000 億円を支援。
・2020 年シェアーは、インテル、サムスン、TSMC で 50%であるが、中国が出てきたことで
皆騒いでいる。
・残念ながら、今の日本の半導体には、アメリカ、台湾、韓国と対等に戦える全体を見る
半導体生産技術者がいない。早くファウンドリーを作って、全体を見れる人を養わなくて
はならない。
・インテルは、2兆円を投じて半導体工場を作り、ファウンドリーもとしている。最先端は、
TSMC に発注という。
・米・韓・中とも政府が大規模投資をおこなって企業強化に乗り出している。
・TSMC が熊本に来ないならば、日本は国立半導体ファウンドリーを高学歴者が好む東京に
つくるのが良い。中国や各国に行っている人を集めなければならない。
・日本の半導体は、日本にファウンドリーを作れるかどうかで将来が決まる。日本は、研究
開発と設計を放してはならないが、製造が無くては設計も育たない。ファウンドリーの
運営は、海外にいる優秀な生産技術者を高額で日本に呼び戻して雇用し、若い技術者を
育てるのが良い。
Q: TSMCが熊本に作るのは20nmで最先端ではない。最先端でないところに国のお金を入れる
ことは、参加しない他の企業から見て、不公平ではないのか?
A:ファウンドリーでいろいろなものを作って、そこで若い人材を教育することに意味がある。
Q:同じような質問であるが、競争力のない工場を作っても赤字になるのではないか?
A:人を養成するために必要。装置を買って集めてもダメ。設計と製造のチューニングで、
良いものが出来る。
Q:日立が大型コンピューターから撤退した理由は?
A:収益が上がらなかった。重電と半導体の信頼性の考え方が全く違った。半導体は交換すれば
良いという文化。大型コンピューターにケチがついたら、他の重電の製品に影響するという
ことで、当時の三田さんが撤退を決めた。
3. 世界のカーボンゼロ発電について:
・日本は石炭・LNG 火力発電、原子力発電に力を入れていて、クリーン発電に取り組んでいな
かったため、地球温暖化問題、2011 年福島原発事故により行き詰った。
・中国、ドイツの企業は、太陽光発電、風力発電、地熱発電で大きく伸びて来ている。
・日本でもクリーン発電が導入されはじめたが、石炭火力が多く、まだ道半ばである。中米とも
多く対策が必要。
・送電ロスが少なく、長距離にも適した超高圧直流送電が、オーストラリアとシンガポール間で
行われている。日本でも、洋上風力発電し、超高圧直流送電で本州に送る構想がある。
・東芝が効率15%の太陽電池を 2025年量産化予定。NEDO が小型風力発電機を開発し、
世界で販売。
・中国は小型の金属ナトリウム原子炉を開発。アメリカは冷却水が循環しない水没型原子炉を開
発中。日本でも小型のナトリウム原子炉や高温ガス炉などを東芝と原子力開発機構が開発中。
・日本の発電は原子力が停止しているため火力が多く、炭酸ガスの発生が多い。当面の措置と
してはやむを得ないが、早急なカーボンゼロの対策を求められている。
4. 世界の EV 製造と日本:
・日本は EV に出遅れた。世界の EV の 65%は中国製で、欧米もほとんどは中国で生産して
いる。中国で生産しているテスラが 1 位で VW が 2 位、国内生産の日本は日産が 14 位
でトヨタが 16 位。
・テスラは 3 モデルを世界同時販売。中国は家庭で充電できる 47 万円の EV や、バッテリー
毎交換する EVまで出て来ている。
・日立は、モーターとインバーター、ブレーキを一体化させた、走行距離を 10~20%伸ばせる
インホイールモーターを 2021 年 10 月に開発している。
・日本では、充電の問題などで EV が普及していない。家庭で充電できる EV、バッテリー
毎交換できる EV 予備電池を自宅で充電できる EV などを提案したい。
5. 終わりに:
・一度捨てた技術は人材が離散してしまい、技術の進歩に追いつけなくなり、再興することは
容易ではない。
・日本には、年功序列の制度や言語能力の壁があり、優れた海外の人材を呼びこみにくい。
・日本は、半導体、クリーンエネルギー、EV に注力し、競争劣位の産業を捨て、自力再生の
みちを歩まねばならない。
・能力のないものは若くてもクビを切り、有能な人材は老人でも雇用すべきである。
・日立製作所の話し:
220 兆円の経済圏を有する日本最大の企業グループ。
7800 億円の赤字から復活した痛みの改革。
日立製作所の収益推移と時価総額。
日立に関する資料と Q&A の資料:
後日、演者太田氏より日立に関する説明資料と 10 月 16 日の Q&A の報告が配布された。
本報告での Q&A は、2項「世界半導体投資と日本」に関するもののみ記載した。
【報告:水越 正孝】
https://stf.or.jp/top/images/music/m416.pdf