第193回セミナー報告「EV用リチウムイオン電池の世界情勢とビジネス戦略」2018年7月
2019年 01月 01日科学技術者フォーラム・平成30年7月度セミナー(第193回)報告
テーマ:「EV用リチウムイオン電池の世界情勢とビジネス戦略」
日 時:平成30年7月21日 14:00 〜 16:45
会 場:品川区立総合区民会館「きゅうりあん」5F 第3講習室
参加者:56名
講演者:株式会社オザワエナックス 代表取締役 小沢 和典 氏
小沢氏はソニー株式会社においてリチウムイオン電池の開発に携わり、世界で初めて製品化に成功した正に生みの親です。この電池は全世界で最先端の電子機器に使われている重要な電源です。更に、近年EV搭載用電池として大きな注目を浴びています。
一方、この電池を世界に先駆けて製品化に成功したにも関わらず、現在その生産規模では、韓国、中国の後塵を拝しています。特に中国では、巨大工場の建設が相次ぎ世界を席巻する勢いです。
この様な現状を踏まえて、リチウムイオン電池の基本特性、黎明期の苦労話、EV用電源のあるべき姿、日本の進むべき方向など話された。
配布資料:EV用リチウムイオン電池の世界情勢とビジネス戦略(全12ページ)
『講演要旨』
詳細は配布資料にある図、写真、反応式など参照。
1. 基礎技術
冒頭に言われた「この電池は27年前に発明したが、本質的な技術は今も変わっていない」は、印象に残る一言であった。
リチウムイオン電池(Li電池)以外の電池は、充放電時に活動物質が溶解析出の化学反応を伴う。Li電池はLiイオンが移動するだけで化学反応を起こさない。このことが従来の電池にはない特徴である。いかにLiイオンを動くやすくするかが開発の目的であり、27年間多くの開発がされてきたが
本質的なところは同じである。
2. 世界初の量産電池開発
世界で初めて量産したLi電池(18650)は、1991年にソニーTR-1 Camcorder用電池パックに使われた。円筒形で巻込み式極板を採用した。直径18? 高さ65mmで現在の標準寸法となっている。
これの開発により材料の選定、粉体の形状、粒度、混合、塗布、乾燥法、セパレータ材質、充放電方法などの量産KHを確立できた。特に、苦労したのは円筒形の缶材料の選定で、鋼板+Niメッキが成功のポイントの1つであった。
3. EV用Li電池の開発
1996年ソニー(株)退社後、エナックス(株)を設立しEV用電池の開発を本格化した。EV用としては、車載設計(物理的強度、冷却性能、搭載自由度など)と生産設備コストなどを総合的に判断してアルミラミネートフィルムスタック方式Li電池を開発した。この電池は日産EVリーフに搭載されている。初期性能は容量:24kWh 走行距離228Km であったが、現状35kWh 300Km まで進歩している。特に注目すべきは火災事故などの重大事故は皆無で、信頼性の高さを誇っている。
今後の開発目標
本格的なEV時代を想定すると発煙、発火、破裂などの重大事故は絶対に起きてはならない。
それを目標に開発している電池がLTO(チタン酸リチウム)電池である。充放電時の体積変化が少いため、長寿命であり、釘刺しテストで問題がなく高い安全性が確認できている。今後、たの材料も念頭にエネルギー密度300Wh/Kg(走行距離 500KM)目標に向けて開発を進める。
4. 今後のビジネス課題
1) 中国の動向
ここ数年間に中国のLi電池生産能力は急拡大している。例えば、CATL社はパナソニックを抜き去り世界トップの生産能力を獲得した。現在、中国政府はEV生産を後押ししており、各社が生産能力拡大競争を展開している。一方、重要な生産設備は主に日本とドイツが供給している。しかし、将来国産化される可能性もある。
中国では開発から商品化まで失敗を恐れず挑戦する姿に、日本の将来を危惧するところである。
2) 東南アジア諸国
中国を追うようにインドをはじめ東南アジア諸国でもEVの巨大市場が生まれようとしている。
3) 不安要素
? Li電池以外のもの
多くの研究開発がなされているが実用化の目途就いたものはない。いずれも汎用性に問題があり、用途が限定されるのではないか。
? 資源
原材料供給、充電用電力供給などに不安要素もある。
? EVの信頼性
急激に巨大市場が形成された時、火災などの重大事故を完全に防ぐことができるか。
5. まとめ(学んだこと)
27年前に山の物・海の物とも分からない技術を見つけたが、世間に出してみて、初めて分かったことが多くあり成長できた。真に「ダメ息子の技術でも市場の風に当てよ」であった。
これからの日本企業は、秘密主義に囚われることなく、経営者や技術者が積極的に外部と交流し、広範囲の情報を糧に開発を進めることが益々重要になる。
(文責 立石修一)